地元人気月刊誌『ゆうマガ』2001年7月号掲載記事
宏徳エンタープライズ(菅沼秀夫)
不動産エージェントとして活躍する菅沼秀夫さん、31歳。5歳のときに受けた手術により、ひじから先を失うというハンディを持ちながらも、余暇にはラグビーやバスケットボール、ゴルフを楽しみ、仕事では昨年度、IMS()よりトップ・プロデューサーの栄誉を手にした。そんな宏徳エンタープライズの若きエース、菅沼秀夫さんにお話をうかがった。

迷ったけれど、
アメリカで生活することを選択しました


菅沼秀夫 YOUマガ(以下Y):不動産エージェントとしての仕事を始めて、今年で何年になられたのですか?

菅沼(以下S):約8年になります。1993年にライセンスを取り、Harper Bondという不動産会社に2年間在籍しました。シアトルに基盤ができている不動産会社に丁稚奉公して、修業をしようと考えたんです。その後、1995年から母の経営する宏徳エンタープライズのエージェントとして働き始めました。

Y:学生の頃から不動産関係の仕事に就こうとお考えだったのですか?

S:いいえ。UWを卒業した後、ビザの問題もあり、日本で就職活動をしていたんです。世界進出をしようとしていたブリヂストンに、“シアトルに支店を作って、ボーイングにタイヤを売り込む”という夢を持って、入社試験に挑みました。内定をいただいて、シアトルに戻って来たら、グリーンカードの当選通知が届いていたんです。ブリヂストンは一流企業ですし、東京で揉まれたいという気持ちもありましたから、すごく迷いました。最終的に、アメリカで生活したいという思いがとても強かったので、グリーンカード取得を選択したんです。

Y:その後、シアトルで就職活動を始められたわけですが、不動産エージェントの仕事を選んだ理由はなんですか?

S:母が不動産の仕事をしていたこともあって、まずは不動産のライセンスを取って、それから考えてもいいのではないかと思ったのです。ライセンスというのは、いくつ持っていても多すぎることはないですし。



“人生最大の買い物”のお手伝いができることに、やりがいを感じます

Y:ライセンス取得後、Harper Bondでエージェントの仕事を始められたわけですが、その2年間はいかがでしたか。

菅沼秀夫 S:初めはやっぱり大変でしたね。100%コミッション制だったので、自分が仕事をしないとお金が入ってこないんです。不動産業界って、華やかなイメージを持たれるかも知れませんが、初めの6カ月間は給料ゼロと思っていないと続けることはできません。仕事を始めて2年で、約8割の人が辞めていくと言われています。たとえ知人に1軒売れたとしても、その後が続かないんです。

入社してからもさまざまな研修に参加しました。電話帳からランダムに電話をかけて営業し、アポイントをとるという宿題が出たのです。みんな、週末、朝9時頃から電話をかけるわけです。「家を売られる予定はありますか?」とか、「知り合いの方で家を売りたいっていう方、いらっしゃいますか?」っ聞いて、「No」、「ありがとうございました」の繰り返し。3時頃、初めて「Yes」って返ってきた答えに、今度はどう反応していいのか分からなくなっちゃって……、「あっ、ちょっと待って下さい」って言っちゃったんです(笑)。

Y:エージェントとして仕事をされていて、どんな時にやりがいを感じられますか?

S:家を買うことは、お客様にとって人生で一番大きな買い物なんです。その家が生活のベースになるわけですから、それを自分たちが紹介して、すごく気に入っていただいて、お客様が喜んでくれる様子を見るたびに、この仕事をしていてよかったと思います。

Y:以前、『YOUマガ』でも、お母様が1999年度にIMSのリスティング・トップ・エージェント(**)に選ばれたことを紹介しましたが、2000年度は秀夫さんも選ばれたそうですね。どんな1年でしたか?

S:忙しかったです、本当に(笑)。この仕事をしていていつも思うことは、日本とアメリカの文化、法律、習慣の違いの中で、売り手と買い手が歩み寄れる接点を見つけること。これが僕たちの仕事であり、永遠の課題なんです。

Y:会社のボスであり、エージェントとしても大先輩であるお母様から、仕事の上でどんなことを学ばれていますか?

S:何もかもですが、特に強さですね。こちらで会社を築きあげたこともそうですが、自分の信じていることに対して強い気持ちを持ち続けることができる人なんです。たとえば、何か相談にいくと、「お客様のためにやっている仕事なんだから、自分が強い信念を持ってやっていかないといけないのよ」って言われます。すごく尊敬できる部分です。

たまには意見の食い違いもありますが、そんなときは、僕より20年以上も多く生きている人なんだから、母が経験してきたことを僕に教えようとしているのだと思って聞くようにしています。


今はゴルフに夢中です

Y:日お忙しいと思いますが、余暇の時間はどのようにお過ごしですか?

S:スポーツです。ラグビーやバスケットボールの練習に参加したりしていますが、今はゴルフに夢中です。ゴルフには、チャレンジがあります。これまで自分が好きになったスポーツは、みんなと対等に戦えるレベルにはなっていると思うんです。ラグビーにしてもバスケにしても、「秀夫が片手だからって、ハンディがある相手と戦っているなんて思ったこともない」って言われるんですよ。対等に戦わないと自分がやられるぞ、って。でも、ゴルフはもっとうまくなれるはずだと思うんです(笑)。今、伸び悩んでいるんですが、それがすごくチャレンジがあっておもしろいんです。

Y:最後に、10年後の目標をお聞かせいただけますか。

S:お陰様で、宏徳エンタープライズは多くの方々に信頼していただける会社になりました。僕たちの仕事は、お客様からの信頼維持が第一です。二代目で、この“信頼”をプラスアルファしていきたいですね。 そのためにも、今のうちに母から学べることはすべて学んで、母が早く大好きな犬たちとのんびりと暮らせるようにしてあげたいと思っています。(インタビュー・石井克美 / 撮影・後藤清純 / 構成・鳥居直子)


)IMS
ノースウエスト不動産協会のすべての不動産売却データをまとめる会社。現在ワシントン州の不動産ライセンスを持つエージェントは、約18,000人。

**)リスティング・エージェント
リスティング・エージェントとは、不動産を売り手に代わって一般市場に売りに出すため諸業務を行う人。手持ち物件の売買実績が、全エージェントの上位10%以内にランクインすると、トップ・プロデューサーの称号が与えられる。


〜 先輩からのメッセージ 〜
アメリカで大学を卒業された菅沼秀夫さんに、現在、アメリカで学生生活を送るみなさんへのメッセージを聞いた。


学生の間、学校の勉強が大変だと思いますが、学校の勉強以外に関して学ぶことも、自分のためになると思います。遊びでもいいですし、セミナーに行くのもいいでしょうね。また、年上の方と知り合う機会があったら、積極的に会って、話を聞くのも貴重な経験だと思います。僕もラグビー・チームに入ってから、自分の職種とは違う多くの人と知り合えました。僕の場合、一緒に戦い抜いたものがあるので、お互いに悩みごとの相談を持ちかけることもあります。就職してしまうと、自分の職種以外に人間関係が広がることが少なくなりますから。

あとは、やはり英語。今、国際社会で、英語を話せるとそれだけ有利になりますし、アメリカに来た目的、“英語を話せるようになって、将来、仕事などの場面で使えるようになりたい”、という初心を忘れないでほしいですね。日本人ばかりとつき合わず、英語を話せる場所に積極的に参加するべきだと思います。